韓流ドラマと黒人音楽に見る家族のカタチ【適菜収】 連載「厭世的生き方のすすめ」第21回
【連載】厭世的生き方のすすめ! 第21回
少子高齢化や女性の社会進出、個人の選択の多様化などを背景に、家族のあり方は大きく変化してきた。かつては家制度が根強く、男性中心の「夫婦と子ども」世帯が理想像とされていたが、今は一人世帯が増えている。では、外国ではどのように家族は捉えられているのか。作家・適菜収氏が家族の本質を探った。当サイト「BEST T!MES」の長期連載「だから何度も言ったのに」が大幅加筆修正され、単行本『日本崩壊 百の兆候』として書籍化された。連載「厭世的生き方のすすめ」では、狂気にまみれたこのご時世、ハッピーにネガティブな生活を送るためのヒントを紹介する。

■男性アイドルグループSEVENTEENと「CARAT」
私は東京の大学に入るまで山梨県の実家で家族と一緒に暮らしていた。それが日常だったので、改めて「家族とはなにか」と考えることもなかった。大学に入って気づいたことがある。それは、家族を中心にものごとを考える人が多いということだ。二学年上に石井武さんという先輩がいた。面倒見がいい人で、何度か酒を飲みに連れて行ってもらった。あるとき、石井さんの自宅に電話をかけると、父親が出た(当時は携帯電話が普及する前だった)。「武さん、いますか?」と私は言い、代わってもらった。すると石井さんはドスの効いた低い声で話し始めた。普段は高い声でおネエ言葉を使う人だったので、私は驚いた。そして、父親の前ではおネエキャラを封印しているのだなと思った。
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吉川という先輩がいて、滋賀県にある彼の実家に遊びに行ったことがある。夕食の時間、吉川の父親にプロ野球について聞かれたので、「野球のことはよくわからないし、あまり興味はないんですよ」と答えた。その後、私は吉川に無視されるようになった。人づてに聞いた話をまとめると「せっかくお父様が話を振ってくださったのに、あの態度は何事か」ということらしい。
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個人的な経験に基づく偏見かもしれないが、西日本の人のほうが家族への愛着は深いような気がする。吉川は「オレの姉貴はすごいべっぴん」とよく言っていた。一度見かけたことがあるが、山田花子を陰気にしたような感じだった。私は日本列島の広さに思いを馳せた。
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昔、『冬のソナタ』というドラマがあった。2002年に韓国で放送され、2003年から2004年にかけて日本で放送された。このドラマをきっかけに「冬ソナ現象」と呼ばれるブームが発生する。主人公を演じたペ・ヨンジュンは「ヨン様」と呼ばれ、中高年の日本女性の圧倒的な支持を得た。
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あるときどこかのテレビで、ペ・ヨンジュンが来日したというニュースを見た。ペ・ヨンジュンは登場すると「日本の家族の皆様こんにちは」と日本語で言った。より正確に言うと「日本のカジョクの皆様こんにちは」と岡山訛りで言った。
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今回、あらためて調べてみると、家族とはファンのことらしい。「ペ・ヨンジュン 日本向けホームページに謝罪文掲載」という記事(wowkorea)には次のようにある。
「本日のホテルニューオータニ出発時における混乱により、関係者の方々にご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。また、このことで多くの家族の皆様にご心配をおかけしてしまい、大変申し訳ございません」
話をまとめると、ペ・ヨンジュン側は、ファンの安全確保とホテル客の便宜を考慮し、正面ではなく別の出口を利用するつもりだった。しかし、ペ・ヨンジュンが夜通しホテル周辺で待っていたファンに、ちょっとした挨拶をしようと正面から出ることにし、混乱が生じた。
記事には「私を支持してくださる家族(=ファン)の皆さんに、少しでも近くで挨拶したかった」というペ・ヨンジュンの言葉もある。
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某編集者から聞いた話によると、韓国の男性アイドルグループSEVENTEENはファンのことをCARAT(カラット)と呼ぶそうな。これはメンバーをダイヤモンドに見立て、CARATが彼らを輝かせる存在であることを意味しているらしい。CARATの間では揉め事もなく、皆で彼らを支えて、さらには自分たちも輝く人生を送らなければならないという。
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世界平和統一家庭連合(統一教会)の公式サイトには「世界は家族になっていく」とある。われわれは知らないうちに「家族」になっている可能性がある。
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